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やっと高校生になって、ゆとり感が抜けたブログ。サブカル中心とした学校生活を送ります。過度な期待をしてやってください。

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 あれからどれだけ時間が経ったのだろうか。真っ暗な学校の校舎を猛然と突き進み、自分の家まで止まることなく走り続けた。何も考えることなく、ただ走ることだけに集中した。多分、俺はこの現実からとりあえず逃れたいという気持ちからであろう。気付いたときには、自分の部屋のベッドで眠っている自分がいた。
 ――俺、いつのまに眠っていたんだ……? とにかく、今日も学校だし、起きないとな……――
 そう思ってベッドから起き上がろうとした時、手にふにゃっとした柔らかい感触が当たった。こんな不思議な感触のもの、俺の部屋にあったっけな?
「って、え!?」
 思わず大声が出そうになった。それもそのはず、目を開けると、そこにはふにゃっとした柔らかい感触の主がスヤスヤと小さな息を立てながらよく眠っていた。
 ――り、凜が何でここに!? いや、そもそもよりによって何故俺の布団の中で眠ってるんだ!?――
 つまり、そこには凜がいたのである。何故このような状況になっているかは分からないが、確実にマズイってことには変わらない。もしここで大声を出しさえすれば、ここを未由のやつに見られてしまう。そうすれば、俺は恐らく……。
「と、とにかく、ここは静かに起き上がらないと……」
 息を殺しながら、足をベッドからゆっくりと出す。蝸牛が動くような速さで。しかしその次が問題だった。俺の右腕はガッシリと凜の両手で拘束されている。これでは迂闊に動くことすら出来ない。やはり慎重に対処するしかない。
「よいしょっと。よし、なんとか気付かれずにすんだな。後はこのまま未由が来ないうちに一階へ行けば……。
 と、その時。不覚にも足下に注意を払っていなかったせいで、左足の小指をベッドの端にぶつけてしまった。
「ゴン!」
 低く鈍い音が鳴る。その分、俺の足には半端無い痛みが襲いかかった。
「痛って!」
「うん、むにゃ……? あれ、お兄ちゃん起きてたんだ……。おはよー」
 凜は寝ぼけ眼を擦りながら、起き上がった。俺の着ている服は昨日のままであるのに対して、凜はいつのまにか可愛らしいパジャマを着ていた。ちょっとだけズボンがずり落ちてチラッとぱんつが見えてしまっているんだが、それは気にしない方がいいだろう。
「ああ、おはよ……。凜、いつから俺の布団に入ってきたんだ?」
「昨日の真夜中だよ。お兄ちゃんが一人で家に帰ってきた後……」
 ――やっぱり昨日の出来事は夢じゃないのか。まあ……、俺には関係ない事だけど――
「よし、せっかく珍しく早く起きられたんだし、早速朝飯にすっか! 凜も早く行こうぜ」
「ちょっと待ってよ、お兄ちゃん。昨日の事、やっぱり受け入れられないの?」
 部屋のドアを開けようとした時、凜から投げ掛けられた一言。凜の口調はいつもとは違い、落ち着いた感じだった。それが余計に違和感を俺に抱かせる要因となった。だが、誰がなんと言おうと俺はあんなふざけた連中と殺し合うなんてまっぴらゴメンだ。
「その話はやめにしてくれないか。凜の気持ちも分かるけど、無理なものは無理なんだよ」
「そっか……、残念だな」
 凜は誰が見ても明らかなぐらい、悲しそうな表情をしていた。そんな凜を見ていると、何故か後ろめたい気分になってしまう。
「うん、そうだよね。大丈夫、凜、別に何も気にしてないから! さ、早く一階に下りようよ!」
「あ……、ああ。凜がそう言うのなら俺もいいんだけど……」
 結局、そんな事を言っても、凜はやっぱり悲しそうな部分は隠しきれてなかった。空元気というのだろうか、こういう時の凜を。
     *     *     *
「あ、お兄ぃ。それに凜ちゃんもおはよう。どうしたのー、今日はなんでこんなに朝早く起きてきたの?」
 やはり俺の家は、いつもの毎日の平穏な光景だった。未由は昨日の夜、あんだけ酒を飲んで酔い潰れていたっていうのに、今日も朝早くから朝ご飯の支度をしている。さすが、たくましい妹だ。俺には真似できないタフさを持っている。
「凜ちゃん、おはよー! わー、なんか美味しそうな匂いがするね!」
「そう? そう言ってもらえると嬉しいかな。ちなみに今日の朝ご飯はスクランブルエッグだからね」
「ああ。スクランブルエッグは結構好きだ。そうだ、姉貴はやっぱりもう学校に行ったのか?」
「うん、姉さんは弓道部の朝練が六時からあるって言うんで、すぐ家を出て行ったよ。はい、コーンスープ。二人とも、冷めないうちに飲んでね。若干、隠し味が入ってるから、美味しいかどうか食べてみて」
 そう言って未由は俺と凜をリビングの席に着かせると、キッチンからコーンスープを運んできた。
「わーい! いっただきまーす!」
「コーンスープの隠し味って何だよ。隠す必要とかあるのかよ?」
「いいから、早く食べちゃってよ。片付けが出来ないし」
「ほいほい」
 相変わらず、意外と未由が作る料理はおいしい。未由無くして、久遠家はどう生きていかなければいけないんだろうか。それほど、未由の作ったコーンスープは身体の芯から俺を温めた。
「ほんとだ、美味しい! 未由ちゃん、スゴイね」
「まあ、性格はともかく、未由は絵莉菜と同じぐらい料理が上手なんだよな。凜は料理とかしないのか?」
「エヘヘ、残念ながら凜は料理とか作ったことないんだ。あ、そうだ! 今日は一緒に学園内を見て回ってくれる約束だよね!」
 そう言えばそんな約束を昨日していたような。まあ、どうせ放課後は暇なわけだし、嫌だとは思わない。
「そうだったな。それで、凜は何か部活に入るつもりなのか?」
「まだ決めてないけど、いろいろ部活を回ってみようと思うんだ。ここって、たくさんの部活とかサークルがあるみたいだしね。未由ちゃんは何かに所属してるの?」
 ちょうどスクランブルエッグをテーブルに運んできた未由に、凜が聞いた。
「私? 生徒会の下部組織、執行部と料理研究会、それに喧嘩倶楽部っていうサークルにも参加してる」
「喧嘩倶楽部って何?」
「う~ん……、要は喧嘩の研究と発展を目的に運営されているサークルってところかな。そこだと喧嘩の腕も強くなるし、他にもいろんな学園の強者が所属してるからね。楽しいよ」
「ほんと! なんだか楽しそうなサークルだね! 凜、入ってみようかな!」
 凜だったら中国拳法も使えるわけだし、喧嘩倶楽部には向いているかもしれないな。だが、喧嘩倶楽部と言えばメンバーがほとんど大学の生徒達だっていうし、かなりの不良もいるっていうのがもっぱらの噂だ。しかし、そんな所に平然と所属している未由は、そいつら以上に強いというわけだ。妙に納得できちまうのが怖い。
「うん、凜ちゃんなら大歓迎! 悪そうな奴ばっかだけど、中身は良い奴等だから、面白いと思うよー。そうだ、お兄ぃは今年も部活はやらないの?」
「ああ、今年も部活はやる気無い」
「えー、お兄ちゃん、中学の時は軽音楽部でバンドやってたのにー! どうして、高校になってやめちゃったの?」

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「君のお父様、久遠王士さんは病気なんかで死んだのではない。つまり、はっきり言って殺されたのよ。何者かによってね」
 『殺された』。何故今日に限って、こんな物騒な言葉がたくさん出てくるんだろうか。しかし、もはや俺に疑問など生まれない。全て受け入れなくては、いけない。そう、自分に問い聞かせた。
「あの……、じゃあ一体誰に殺されたんですか。俺の親父は……?」
「それが分からないから何者かなのだよ」
 学園長は部屋に大きく取り付けられた窓から、満月を眺めながら言った。
「これは十年前の或る夜の出来事、つまり君がまだ五、六歳の時なのだけど、その日の夜、突然連絡が入って、その時にはもう久遠王士さんは殺されていたの。彼の自宅、いえあなたの家で」
 ちょっと待て。それじゃあ雪乃先生の話が本当なら、親父が殺された瞬間をどうして俺は覚えていないんだ? 俺の家で起きた出来事なら、いくらなんでも今まで気付かないはずがない。
「雪乃先生。もしそれが本当なら……、その日俺は一体何処にいたって言うんですか!? もしそうだとしたら、俺やそれに母さんが殺される瞬間を見ていたっていいじゃないですか」
「落ち着きたまえ、鍵士君。君の言うことは確かに正しい。その時間、君はそこにいただろうし、君のお母上もいたのは事実だ」
「それじゃあどうして?」
「久遠鍵士。お前は久遠王士さんが殺害された現場にいたはずだ。なのにお前の記憶にそのようなものは無いと見える。それどころか、お前のお母上もお前と同じで全くその日の夜の記憶が全くないと言っているんだ。つまりどういう意味かわかるわよね?」
 矛盾している。雪乃先生の話は恐らく正しいのであろうから、間違っているのは俺の記憶そのものなのか……?
「君が思っているとおり、この事件は矛盾しているんだ。当時、事故現場での状況報告によれば、久遠王士さんは血塗れの酷い状態でリビングで倒れており、その先の玄関で久遠詩織さんもまた頭部に軽い怪我をしながら倒れていた。そして、お前は寝室にて保護されたというんだ。その時の記憶はある?」
「いえ……。残念ながら覚えてません。そんな事件があったこと自体、まだ信じられません……。クソッ、何で涙が出てくるんだよ……」
 鍵士の目から大粒の涙が流れ落ちる。それも仕方がないだろう。この短時間で鍵士は自分が今まで信じていた記憶を否定され、新たな現実を聞かされたのだから。
 そのまま鍵士は身体を地面に崩し、しゃがみ込んでしまった。
「だが実際は存在している。これが現実というものなのだよ、鍵士君。全てを受け入れなくてはいけない。そして君もまた、これから先、過酷な運命に縛られ続けられなくてはいけないのだよ」
「なんですか……、過酷な運命って……。これ以上、俺は何に苦しまされなきゃいけないっていうんですか……」
 もはや鍵士に立つ気力など無い。凜は心配そうにオロオロと鍵士を見ているだけだった。
「しっかりしろ、久遠鍵士! お前は、それでもあの久遠王士の息子なのか!」
「雪乃先生が俺の何を知っているって言うんですか! 第一、親父のことなんて覚えていないんですよ、親父の顔さえ。それなのに何で息子だからって理由で、こうも巻き込まれなきゃならないんすか!」
 鍵士の怒りは最高潮に達していた。雪乃先生も、あまりの鍵士の激情っぷりに一瞬、怯んでしまった。
「それだけが理由ではないんだよ、鍵士君。つまり、ついさっき君に襲いかかった者と関係があるんだよ」
 さっきの出来事……。あの悪夢のような出来事か。まだ、あの謎の男に蹴られたところは激しく痛む。その痛みがあの時の恐ろしさを物語っているようだった。
「あの男がどうしたって言うんですか。一体俺に何の関係があるんですか?」
 雪乃先生が学園長に耳打ちをし、学園長が小さく頷くと、またファイルをめくりながら言った。
「彼らの名は『概念の主』。この世界を構成する幾つもの概念世界をそれぞれ支配している、人間に似て、非なる存在。それが彼らなのよ」
 ――『概念の主』……。やはりあの男が言っていた通りだ――
「でも、その……、『概念の主』が何でまた俺を襲ってくるんですか?」
「それがさっぱり分からんのだよ、私にもね。何故、よりによって君のような平凡な少年が彼らの標的にされるのかがね」
「つい最近、彼らの動きが活発化しているという情報が私たちの方に入ってきたの。そして、さらに彼らの向かっている場所がここ、つまり紅華ヶ丘町だって事も分かったの。それもあなたの命を狙うためにね」
 命を狙われる? 俺が? どうして聞いたこともない奴らに、俺の命が狙われなきゃならないんだ!?
「もちろん、君が何故彼らに狙われているのかは分からん。だが、とにかく現在は緊急事態だと考えてね。君が狙われるということは、この町もまた危機に晒されるということだからね」
「私たちの推測ではね、久遠鍵士。お前には父親譲りの能力、『概念殺し』と呼ばれる能力が備わっていると考えているんだよ」
「なんですか、その『概念殺し』って?」
「つまり、通常、人間には破壊することができない概念と呼ばれるものを、破壊できるという異能の事よ。それさえあれば、不死身と呼ばれる『概念の主』さえ殺すことが可能なのよ。だから彼らにとっては最大の脅威ってなわけなのよ。どう、分かった?」
 だいたいは理解できる。でもそれが、どういった経路で俺の身に備わってしまっているんだ?
「よく聞きなさい、久遠鍵士。つまり私たちが言いたいことは、あなたに彼らを倒してほしいの。あなたの『概念殺し』の能力を使って」
「ちょっと待って下さい! 話が早すぎます! ついさっき、彼らをこの目で間近に見ましたけど、あんなのを俺がどうやって倒せっていうんですか!? 無理に決まってます!」
「分かっている。確かにお前は今まで、平凡な人間の生活を送ってきたのだろうし、戦闘経験が無いのも分かっている。だが、さっき『概念の主』に襲われた際、お前は数分の間だが、その攻撃に耐え、時間を稼ぐことに成功している。つまり、お前の潜在的な部分には、お父様、久遠王士の力が秘められているというわけなのよ。そして、それをフルに活用さえ出来るようになれば、彼らと対等に殺り合えると考えているの」
 潜在的な能力かは知らないが、確かにあの時、俺は自分でも驚くほどの身体能力が発揮できたというか、あの男の攻撃を回避できた。まさしく偶然と呼べる代物じゃなかったのは事実だ。
「それにお前のためにはるばる中国から心強い仲間を呼んだのよ」
「それって、凜の事ですか!?」
 するとさっきまで静かに部屋の隅で立っていた凜がピョンピョンと手を挙げながら跳ねた。
「はいは~い! そうだよ、凜の事だよー!」
「彼女、凜君はああ見えて中国拳法の使い手を数多く生んできた名家の出身でね、特に彼のお祖父さんは最強の武闘家だったのだよ。そのため、彼女もかなりの中国拳法の使い手なんだ。だから君との関係を持つ凜君を呼んだのだよ。君の仲間としてね」
 そうだったのか。どうりであの男にあんな攻撃を繰り出せたのか。それに格ゲーが初心者なのに俺に勝ったのにも見当が付く。本物の拳法使いに勝てるはずがないわけだ。
「君だけに全ての責任を負わせるわけにはいかないだろうし、身近に仲間がいれば、その分だけ心強いだろう? 私たちもできるだけお前のフォローをするつもりだ。さあ、戦う気にはなったか、久遠鍵士?」
「お兄ちゃん、一緒に戦おうよ! この町を、何よりお兄ちゃん自身を!」
 凜は完全に張り切っている。まあ、俺と違ってあれだけの腕があれば、それぐらいの自信、あるだろうな。だが、俺には何の力も無い。『概念殺し』か何かは知らないけど、結局俺はこんな狂った殺し合いに巻き込まれなくちゃいけないんだ! ただ、おれは普通に、ごく普通に生きられれば嬉しいのに……。
「嫌です」
「え?」
 一瞬、部屋に静けさが戻った。鍵士の「嫌です」という裏切りの声に、三人はただただ、驚きを隠すしかなかった。
「だから嫌です。俺は戦いたくなんかない。こんな訳の分からない奴らとどうして殺し合わなければいけないんですか! 俺にはそんなこと無理ですよ!」
 部屋中に鍵士の声が響き渡る。
「お兄ちゃん……」
 凜は寂しそうに叫び声を上げる鍵士を見つめた。
「悪いな、凜……。俺にはできない……!」
「バタン!」
 学園長室のドアを勢いよく開け放すと、鍵士は外へと駆け出して行った。鍵士はそのまま、暗闇に包まれた廊下をひたすら走り続けた。鍵士のいなくなった学園長室は三人だけが取り残されている。凜は悲しそうに俯き、学園長は静かに椅子に腰をかけた。
「まあ……、予想はしていましたけど。鈴毬凜、お前は引き続き、久遠鍵士を見守っていてほしい。いつ何時、彼らが襲ってくるか分からないからな」
「はい……」
 雪乃先生は大きなファイルをゆっくりと閉じると、脇に抱え、そのまままるで魔法のように姿をそこから消してしまった。

 鍵士と凜は全速力で夜の街を駆け抜け、ようやく鍵士の家に辿り着いた。
「はあ、はあ。ここまで来れば安心か……。でもあれは一体何だったんだ、凜?」
「『概念の主』だよ。あいつ」
 やはりさっきにも男の口から聞いた『概念の主』という言葉。
「だからさ、その『概念の主』って何なんだよ!?」
「やっぱり知らないよね……。それじゃあ今から学校に行くよ!」
「何で今から学校に行くんだよ? もうこんな時間だっていうのに」
 さっきの出来事で全く時間のことなど考えてはいなかったが、見てみれば時計は二時を指している。こんな真夜中に学校が開いてるはずなど無い。
「思っていたよりもやつらの行動が早かったからね。凜たちも迅速に行動を起こさないとね。早く学校に行くよ!」
「もう、この際どうでもいいか。今は凜の言うことに従っていた方がいいだろうし」
 そう言って凜に言われるがまま、俺は夜の学校へと向かっていった。
「やっと着いた! さあ、学園長先生に会いに行くよ」
 夜の学校は昼とは全く違う様子で俺たちを待ち構えていた。それにしても何故学園長先生に会いに行くのだろうか? 確かにこんな夜遅くだというのに校長室の部屋だけはまだ明かりが点いていた。
「学園長先生に? どうしてだよ?」
「それは後で分かるから」
 二人は夜の学校に入ると、階段を上り、最上階の学園長室へと向かった。この学園に入学してから、俺は一度もこの学園長室には入ったことがなかった。というより学園長の顔自体、見たことがない。学園長先生の存在は知っているが、何しろ普段生徒達に顔を見せる事などない。生徒会長の姉貴すら、二、三回しか見たことが無いと言うぐらいだ。
「コンコン」
「失礼しまーす、学園長先生」
「ああ、凜君か。入りたまえ」
 学園長室は想像以上に広く、部屋の本棚にはびっしりと分厚い本が並んでおり、他にも不思議な物の数々が置かれていた。とにかく学園長先生の部屋だけあってその装飾は豪華絢爛で、その部屋の奥にある大きな椅子に学園長先生らしき人は座っていた。
 学園長先生らしき人といったが、その理由は、その人が顔を完全に巨大な仮面らしきもので覆っており、その顔を見ることが出来なかったからだ。服装は真っ白のコートを羽織っており、身体の後ろには十字架のような金属が付けられている。その十字架が何なのかさえ全く分からなかった。
「あなたが学園長先生……?」
「ああ、その通りだ、鍵士君。初めて会ったのは確か十五年前だったかな」
 その言葉は若干ノイズが混じったような、変わった声だった。それにどうして俺の名前を知っているんだ? それに十五年前に会ったってのは……。
「学園長先生、『概念の主』が動き出し始めました」
「ああ、鈴毬君。すまなかったね。このような事をさせてしまって。何より鍵士君には危険な目に遭わせたのには悪かったと思う。しかし、私が動けばあちらも本格的に動き出してしまうからね」
 そう言うと学園長先生は席を立ち、鍵士の方へと歩み寄ってきた。
「さて、もうこうなってしまっては君にも言わざるを得ないようだ。君が今、どのような状況に立たされいるかをね」
 窓から月光が差し込み、学園長先生の顔を覆う巨大な仮面を妖しく照らしている。これから一体、どのような話をされるのか、想像も付かなかった。もはや俺の頭は、様々な疑問でいっぱいだった。
「率直に言おう。君は今、ある者達に殺されようとしているのだ」
「殺される!?」
 どうして俺が誰とも知らないやつらに殺されなきゃいけないんだ! 一体何の理由で!?
「驚くのも無理もない。私にも理由が分からんのだよ。それも、どうして君が『選ばれし者』かということもな」
「だから、その『選ばれし者』とか『概念の主』とか、全く分からないんだよ!」
 意味の分からない言葉ばかりで、理解したくても分からない。そのことが、俺を苛立たせたのか、溜まっていた疑問と怒り、そして不安感が一気に爆発した。
「お、お兄ちゃん……」
「そんなに怒らないでもいいんじゃないのか、久遠鍵士」
 突然、学園長室のドアが開いたと思うと、そこには間違いなく担任の雪乃先生だった。
「ゆ、雪乃先生? 何で雪乃先生までここに?」
「彼女は私の大切な部下でね、こっちの世界を知る人なのだよ」
 雪乃先生はすらりとした白のスーツを着ており、手にはたくさんの資料らしきプリントの詰まったファイルを抱えていた。
「久遠鍵士。これから話すことは、お前が今まで生きてきた世界の常識とは全く違う世界の話だ。いいか、全ての常識を今、頭から排除してよく聞くんだ」
 常識を排除って、一体……。でも、確かに俺はもう後戻りできない非常識な世界に入り込んでいるのは間違いないんだろうな。
「分かりました。話してください。もう分かってるんです、俺は既に非常識な世界に入り込んでるくらい」
「よし。その潔さがあれば安心だな。学園長、お教えすべき事は全て彼にお話ししてもよろしいのですね?」
「ああ、よろしく頼んだよ、雪乃君」
 雪乃先生はコクンと頷くと、手に持っているファイルを開き、話し始めた。
「それじゃあ、久遠鍵士。まずはお前の生い立ちから話すことにしようか。まず、一つ聞くが、お前のお父様、つまり久遠王士さんがどのような人だったか知っているか?」
「親父の事ですか。いえ……、実はよく知らないんです。俺がまだ小さい頃に、病気で亡くなったって、母親には聞いたんだけど……。やっぱり親父がいたって事には今でも実感が持てなくて」
「なるほど。やはりそう聞いているのか……」
 学園長先生は寂しげな風に呟いた。
「確かにその通りだ。あくまでも表社会での話だがな……」
 雪乃先生はファイルをパラパラと捲ると、一枚のページを見つめながら言った。
「だが、それは事実ではない、作り話であることは知っていた?」
「作り話!? そんな馬鹿な!?」
 俺は耳を疑った。この十六年間、親父は俺が小さい頃、病気で亡くなったと、そう母親に言われたことを信じていた。なのにその事さえ嘘だったなんて……。それじゃあ親父はなんで……?
「お前のお父様、久遠王士さんは、人間界において、最強の勇者。それも、あの『世界の六覇者』の一人だったの。それほどあの人は、強かったのよ」
「親父が!? 親父が最強の勇者だって!? 一体どこぞのファンタジーRPG何だよ」
「まあそう思うのも無理もないか。しかし事実、お前のお父様は最強の勇者だったんだよ。人間界においてね。そして学園長先生もまた、その王士さんのかつての友であり、『世界の六覇者』に数えられるほど強い魔法使いなのよ」
 もはや本当に話がそちら側の世界に入ってきてるよ……。それも『魔法使い』って……。
「ああ、あの頃が懐かしい。彼は恐らく、現在に至るまで最強の人間であっただろう。あの事件が起きるまではな……」
「あの事件って……?」
「あの事件についての話はまだ彼に教えるのは早すぎるのでは……。それにショックも大きすぎるかと」
「いや、もう潮時であろう。時は満ちた。話すべき事は話した方が、彼のためにもなるからな……」
「一体、何のことなんですか? 勿体ぶらずに話してくれよ!」
 学園長先生と雪乃先生、それに凜も知っているのだろうか。三人とも、少し顔をうつむかせていた。
「そこまで言うのならば話すが、恐らく相当のショックを受けるだろうから、それ相応の覚悟は出来ているだろうな」
「ええ。もう、僕には前に進むしかないんですから。後戻りなんて出来ません」
 すると、雪乃先生はその重たい口をゆっくりと開いた。

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HN:
音瑚まろん
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自己紹介:
嫁:ふたみたん(byいつか、届く、あの空に)
  関羽さま(by恋姫†無双)
本日のオカズ:ヤンデレやメイド、最近メカ娘にも手を出し始めたようだ
好きなPCゲームw:いや、これといったものはない。浅く、広く、鬼畜を除く
崇拝する絵師:萌木原ふみたけ


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