話が終わると同時に、体育館にいた生徒達がいっせいに囁きあった。
「ねえ、副生徒会長って蒼花先輩じゃなかったの?」
「フランス人か~。どうりでスタイルいいし、瞳の色とか違うんだー」
「どうやって選ばれたのかな? やっぱ生徒会の投票で?」
「いや、それだったら生徒会でも権限のある水島蒼花じゃないのか?」
「それがさ、学園長直々の任命だったらしいよ、彼女」
「あとさ、噂だから信憑性は低いけど、彼女の家、フランスではかなりの名門の家柄らしいよ!」
「じゃあ、お嬢様ってこと! どおりで私たちとは雰囲気が違うっていうか、気品があるよな」
様々な言葉が生徒達同士の間で飛び交っていく。
「高校二年生だって、鍵士君! あのフレアさんって人、同じクラスになるかもしれないね」
「俺はてっきり三年生かと思ったが。でもあの留学生、何者なんだ?」
「ともかく我々にとっては最高のプレゼントだな、なあ鍵士! あんな美人な留学生が同じ学年だなんて、こりゃさっそく携帯のメアドを
聞かなくてな!」
「いや同意を求められても困るから。第一、お前以外にもあのフレアってやつを狙ってる男子、どうやら多いぞ」
俺が言ったことは事実で、
「彼女、マジ可愛くない?」
「ああ、俺ナンパしてみようかな」
などなど、敦志と同じ考えを抱いている男子は、どうやら腐るほど多くいるようだった。
「まったく。これだから男子ってのは単純なのよね~。急に真新しい、少しばかりカワイイ女子が編入してきただけで、こんなにも
騒いじゃって。ホントあきれちゃう」
「でもほんとに綺麗だよ、あのフレアさんって人。鍵士君はどう思う?」
「え、俺か!? えーと……」
この絵莉菜の質問にどう答えていいものやら。確かにあのフレアって女子が可愛いとは思うが、それを絵莉菜の面と向かって話していいの
だろうか。自分の好きな人の前で、他の女子を可愛いなどと言うのは、マズイのではなかろうか……。
「あー、うん、俺も同感だが、でも俺にとっては絵莉菜の方が可愛いと思うけどな……」
「え、あ、そ、そうなんだ……」
さすがにこれは積極的過ぎたのか、失敗だった。絵莉菜は、俺の言葉に、ただただ戸惑うばかりで、顔を赤くしてうつむいてしまった。
「あのさ~、こんなところでのろけ話するのやめない? なんか私の立場がなくなってるっていうか」
「あ、いや、そんなつもりで言ったんじゃねえよ! ただ……」
俺はやっぱり去年とまったく変わってない。こうやってまた、絵莉菜との関係は進展しなくなる。まあ、仕方ないのは分かってる。普通の
人間が数週間で変われるはずもないんだしな。
「はーい、皆さん静粛に~!」
ザワザワする場内が、またさっきのように生徒会長の一言で、また静まった。
「何だ、まだ話があんのか?」
「実はもう一つ、皆さんに報告したいことがありまーす! そ・れ・は……、私の弟、鍵士が高校二年生になりましたー!」
――あのバカ姉貴、とうとう言いやがったな!――
俺が最も恐れていた事態になってしまった。たかが俺が高校二年生に進級したぐらいで、大々的に発表するか!? しかも公共の面前で!?
「てなわけで、仲良くしてやってね~! あの子、人付き合いが苦手だから!」
しかも姉貴は、壇上から俺に向かって手を振りながら話している。そのせいで、俺以外の全校生徒の視線は、自然と俺の方へと向けられて
くる。目立つのが大の苦手だというのに、これでは余計に苦手になるのも無理もない。
――家帰ったら、姉貴のやつ、ぶっ殺す!――
「久遠君、なんか大変だね……」
絵莉菜はこの状況でさえ、苦笑いしながら俺を励ましてくれる。同情ありがとう、絵莉菜……。
「なんてユーモア溢れる人なんだ、遙さんは! ますます好きになったよ」
ああ、勝手にしてくれ、敦志。
「ハハハ、こりゃケッサクだね~。鍵士、やっぱアンタのお姉さん、最高だわ!」
そりゃよかった、瑞樹。
全く新学期早々、こんなことになるとは……。ほんとにツイてないよ、俺。
すると、多くの生徒達の視線の中に、それとは違う、変わった視線が向けられている感覚がした。視線の先を探すと、そこにはまさしく
あの副生徒会長、フレアの姿があった。最初、俺の勘違いだと思っていた。だがたしかに彼女の目は、俺の姿をとらえていた。
――な、なんだ……? 何で、彼女が俺を見つめているんだ?――
それに、なぜだろうか。彼女を見ていると、何か不思議な感覚に襲われる。普通の人とは違う、何か特別な力があるかのように……。
しかし、しばらくして、彼女はプイッと顔を背けた。そしてそれ以後、始業式が終わるまで、再び目が合うことは無かった。
――あのフレアってやつ、何者なんだ……?――
* * *
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