サタンとは、本来「敵対者」を意味する普通名詞である。実際、旧約聖書に登場する「サタン」という単語のうち、過半数は「敵」という意味で扱われている。また狭義では「悪魔」とも表される。
名前の由来は「敵」もしくは「反逆」を意味するヘブライ語Satanもしくはアラム語Satanaからきている。ちなみに本来ならば、「妨げる者」の意味合いが最も明確だと言えるが、「敵対者」という意味から「悪魔」へと意味が変化したのである。
ここでサタンを五つの分類に分けて、説明したいと思う。
1)旧約聖書におけるサタン
旧約聖書の中では、サタンは神の僕であり、人間を悪に誘惑して試す天使として登場している。
旧約聖書におけるヘブライ聖書の一つ、「ヨブ記」の冒頭にこのような文章がある。
「ある日、主の前に神の使いたちが集まり、サタンも来た。主はサタンにいわれた。
『お前はどこから来た』
『地上を巡回しておりました。ほうぼうを歩き回っていました』
とサタンは答えた」
つまり、旧約聖書のサタンは神の僕であり、人間を誘惑するのは、人間を試すためという理由を伴った、彼自身の役割なのである。だが、サタンはこの役割に熱心になりすぎて、やりすぎることもしばしばあったようである。
2)新約聖書におけるサタン
新約聖書のサタンは、旧約聖書の時と大きく違い、全くの別物として考えられる。なぜなら新約聖書のサタンの姿は竜とされており、よって神に攻め滅ぼされる身だからである。
つまりこちら側のサタンは、神の命令ではなく、自らが率先して悪の行動をとっているのだ。
「そこに御言葉が蒔かれ、それを聞いても、すぐにサタンが来て、彼らに蒔かれた御言葉を奪い去る」
という記述があるように、神の言葉を奪い去るのが彼、サタンなのである。
しかしいくらサタンといえども、所詮は神の掌で踊っているだけのちっぽけな存在に過ぎない。
サタンは、天使によって千年の間、縛られている。そして千年が過ぎ、解放されるとまたすぐに、神に戦いを挑むのだが、すぐにやられ、また同じように縛られてしまうのである。
ちなみにサタンがやられる様子はというと、
「彼らは地上の広い場所に攻め上っていって、聖なる者たちの陣営と、愛された都を囲んだ。すると天から火が下がってきて、彼らを焼き尽くした。そして、彼らを惑わした悪魔は、火と硫黄の池に投げ込まれた」
3)中世ヨーロッパにおけるサタン
サタンは、中世ヨーロッパでは強大な能力をもつ、実在するものとなった。
キリストの再臨によって、千年の間封印されていたサタンが、反キリストとして復活する。つまり、光を象徴する善の神と、それに対立する、闇の象徴なる悪の神の、二元論的キリスト教が出来始めたのである。
サタンは、人間を堕落させる仕事をより円滑に進めるため、配下に多くのデーモンをおき、さらに魔女や呪術師といった者たちも自分の配下においた。
中世ヨーロッパでの宗教改革では、悪魔の恐ろしさをより強烈に人々の心に植え付けた。内容としては、魔王サタンは、人々を隙在れば神に背く邪悪なる道へと導く。その手段とは、偽りの富、贅沢、肉欲といったものを利用する。こうして、邪悪な道へと進んだ者の魂は地獄へと送られるのである、と。
サタンが人の心を得る方法には悪魔憑きと、魔王との契約の二種類が挙げられる。魔王との契約は、聖書の中には存在しない。それは神学者たちが神との契約から模倣して生み出したのであるからである。
ちなみにサタンは人の姿をとることがあり、その場合、全身黒の服を身に纏った背の高い黒人だとしている。理由は黒という色が、悪を強く印象づけるからだ。
4)シベリアにおけるサタン
サタンは、ユダヤ・キリスト教、それにイスラム教における存在だが、世界各地に広がるにつれて、その地の風土によって肉付けされた、独自の悪魔としてサタンが生まれることがよくあり、これも一つの例である。
本来の神話では、創造神の兄である悪神が、サタンとしている。
この神話によれば、人間は、サタンに唾をかけられたために、死ぬようになったとされる。
5)『失楽園』におけるサタン
『失楽園』とは、イギリスの詩人ミルトンの叙事詩であり、その中に登場する反逆天使の首領としてサタンが描かれている。
唯一神の分身である御子、つまり後のイエス・キリストにあたるわけだが、唯一神はその御子に世界の統治権を譲渡したのである。その事により、サタンは嫉妬と対抗心を燃やし、天国で反乱を起こしたのである。
サタンは唯一神の被造物の中でただ一人、自発的な悪意により神に背いたため、あらゆる悪の根源的象徴とみなされ、人間とは違い、決して救済されることのないものとなってしまう。
かつての名前、「ルシファー」もしくは「ルシフェル」は、『失楽園』においては彼の過去の栄光を例える場合のみ、扱われており、天使としての名前は他にあったとされている。しかし、反乱によって、本当の名前はこの夜から抹消され、ただサタン(反逆者という意味)とだけ呼ばれるようになった。
高位の天使だったとしているが、その位階は書かれていない。天界の北方に広大な領地を所有していたとされている。その地位と影響力をもってして、天国の天使の三分の一を反乱の仲間へと引き込んだが、結局御子には完敗し、堕天使となり、幽閉地である地獄を自らの支配下におくことを選択したのである。
このようにサタンは悪魔の代表的存在であり、日本でも半ば固有名詞として扱われている。これは『失楽園』などの小説・戯曲からの影響によって引き起こされているのである。
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