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やっと高校生になって、ゆとり感が抜けたブログ。サブカル中心とした学校生活を送ります。過度な期待をしてやってください。

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「君のお父様、久遠王士さんは病気なんかで死んだのではない。つまり、はっきり言って殺されたのよ。何者かによってね」
 『殺された』。何故今日に限って、こんな物騒な言葉がたくさん出てくるんだろうか。しかし、もはや俺に疑問など生まれない。全て受け入れなくては、いけない。そう、自分に問い聞かせた。
「あの……、じゃあ一体誰に殺されたんですか。俺の親父は……?」
「それが分からないから何者かなのだよ」
 学園長は部屋に大きく取り付けられた窓から、満月を眺めながら言った。
「これは十年前の或る夜の出来事、つまり君がまだ五、六歳の時なのだけど、その日の夜、突然連絡が入って、その時にはもう久遠王士さんは殺されていたの。彼の自宅、いえあなたの家で」
 ちょっと待て。それじゃあ雪乃先生の話が本当なら、親父が殺された瞬間をどうして俺は覚えていないんだ? 俺の家で起きた出来事なら、いくらなんでも今まで気付かないはずがない。
「雪乃先生。もしそれが本当なら……、その日俺は一体何処にいたって言うんですか!? もしそうだとしたら、俺やそれに母さんが殺される瞬間を見ていたっていいじゃないですか」
「落ち着きたまえ、鍵士君。君の言うことは確かに正しい。その時間、君はそこにいただろうし、君のお母上もいたのは事実だ」
「それじゃあどうして?」
「久遠鍵士。お前は久遠王士さんが殺害された現場にいたはずだ。なのにお前の記憶にそのようなものは無いと見える。それどころか、お前のお母上もお前と同じで全くその日の夜の記憶が全くないと言っているんだ。つまりどういう意味かわかるわよね?」
 矛盾している。雪乃先生の話は恐らく正しいのであろうから、間違っているのは俺の記憶そのものなのか……?
「君が思っているとおり、この事件は矛盾しているんだ。当時、事故現場での状況報告によれば、久遠王士さんは血塗れの酷い状態でリビングで倒れており、その先の玄関で久遠詩織さんもまた頭部に軽い怪我をしながら倒れていた。そして、お前は寝室にて保護されたというんだ。その時の記憶はある?」
「いえ……。残念ながら覚えてません。そんな事件があったこと自体、まだ信じられません……。クソッ、何で涙が出てくるんだよ……」
 鍵士の目から大粒の涙が流れ落ちる。それも仕方がないだろう。この短時間で鍵士は自分が今まで信じていた記憶を否定され、新たな現実を聞かされたのだから。
 そのまま鍵士は身体を地面に崩し、しゃがみ込んでしまった。
「だが実際は存在している。これが現実というものなのだよ、鍵士君。全てを受け入れなくてはいけない。そして君もまた、これから先、過酷な運命に縛られ続けられなくてはいけないのだよ」
「なんですか……、過酷な運命って……。これ以上、俺は何に苦しまされなきゃいけないっていうんですか……」
 もはや鍵士に立つ気力など無い。凜は心配そうにオロオロと鍵士を見ているだけだった。
「しっかりしろ、久遠鍵士! お前は、それでもあの久遠王士の息子なのか!」
「雪乃先生が俺の何を知っているって言うんですか! 第一、親父のことなんて覚えていないんですよ、親父の顔さえ。それなのに何で息子だからって理由で、こうも巻き込まれなきゃならないんすか!」
 鍵士の怒りは最高潮に達していた。雪乃先生も、あまりの鍵士の激情っぷりに一瞬、怯んでしまった。
「それだけが理由ではないんだよ、鍵士君。つまり、ついさっき君に襲いかかった者と関係があるんだよ」
 さっきの出来事……。あの悪夢のような出来事か。まだ、あの謎の男に蹴られたところは激しく痛む。その痛みがあの時の恐ろしさを物語っているようだった。
「あの男がどうしたって言うんですか。一体俺に何の関係があるんですか?」
 雪乃先生が学園長に耳打ちをし、学園長が小さく頷くと、またファイルをめくりながら言った。
「彼らの名は『概念の主』。この世界を構成する幾つもの概念世界をそれぞれ支配している、人間に似て、非なる存在。それが彼らなのよ」
 ――『概念の主』……。やはりあの男が言っていた通りだ――
「でも、その……、『概念の主』が何でまた俺を襲ってくるんですか?」
「それがさっぱり分からんのだよ、私にもね。何故、よりによって君のような平凡な少年が彼らの標的にされるのかがね」
「つい最近、彼らの動きが活発化しているという情報が私たちの方に入ってきたの。そして、さらに彼らの向かっている場所がここ、つまり紅華ヶ丘町だって事も分かったの。それもあなたの命を狙うためにね」
 命を狙われる? 俺が? どうして聞いたこともない奴らに、俺の命が狙われなきゃならないんだ!?
「もちろん、君が何故彼らに狙われているのかは分からん。だが、とにかく現在は緊急事態だと考えてね。君が狙われるということは、この町もまた危機に晒されるということだからね」
「私たちの推測ではね、久遠鍵士。お前には父親譲りの能力、『概念殺し』と呼ばれる能力が備わっていると考えているんだよ」
「なんですか、その『概念殺し』って?」
「つまり、通常、人間には破壊することができない概念と呼ばれるものを、破壊できるという異能の事よ。それさえあれば、不死身と呼ばれる『概念の主』さえ殺すことが可能なのよ。だから彼らにとっては最大の脅威ってなわけなのよ。どう、分かった?」
 だいたいは理解できる。でもそれが、どういった経路で俺の身に備わってしまっているんだ?
「よく聞きなさい、久遠鍵士。つまり私たちが言いたいことは、あなたに彼らを倒してほしいの。あなたの『概念殺し』の能力を使って」
「ちょっと待って下さい! 話が早すぎます! ついさっき、彼らをこの目で間近に見ましたけど、あんなのを俺がどうやって倒せっていうんですか!? 無理に決まってます!」
「分かっている。確かにお前は今まで、平凡な人間の生活を送ってきたのだろうし、戦闘経験が無いのも分かっている。だが、さっき『概念の主』に襲われた際、お前は数分の間だが、その攻撃に耐え、時間を稼ぐことに成功している。つまり、お前の潜在的な部分には、お父様、久遠王士の力が秘められているというわけなのよ。そして、それをフルに活用さえ出来るようになれば、彼らと対等に殺り合えると考えているの」
 潜在的な能力かは知らないが、確かにあの時、俺は自分でも驚くほどの身体能力が発揮できたというか、あの男の攻撃を回避できた。まさしく偶然と呼べる代物じゃなかったのは事実だ。
「それにお前のためにはるばる中国から心強い仲間を呼んだのよ」
「それって、凜の事ですか!?」
 するとさっきまで静かに部屋の隅で立っていた凜がピョンピョンと手を挙げながら跳ねた。
「はいは~い! そうだよ、凜の事だよー!」
「彼女、凜君はああ見えて中国拳法の使い手を数多く生んできた名家の出身でね、特に彼のお祖父さんは最強の武闘家だったのだよ。そのため、彼女もかなりの中国拳法の使い手なんだ。だから君との関係を持つ凜君を呼んだのだよ。君の仲間としてね」
 そうだったのか。どうりであの男にあんな攻撃を繰り出せたのか。それに格ゲーが初心者なのに俺に勝ったのにも見当が付く。本物の拳法使いに勝てるはずがないわけだ。
「君だけに全ての責任を負わせるわけにはいかないだろうし、身近に仲間がいれば、その分だけ心強いだろう? 私たちもできるだけお前のフォローをするつもりだ。さあ、戦う気にはなったか、久遠鍵士?」
「お兄ちゃん、一緒に戦おうよ! この町を、何よりお兄ちゃん自身を!」
 凜は完全に張り切っている。まあ、俺と違ってあれだけの腕があれば、それぐらいの自信、あるだろうな。だが、俺には何の力も無い。『概念殺し』か何かは知らないけど、結局俺はこんな狂った殺し合いに巻き込まれなくちゃいけないんだ! ただ、おれは普通に、ごく普通に生きられれば嬉しいのに……。
「嫌です」
「え?」
 一瞬、部屋に静けさが戻った。鍵士の「嫌です」という裏切りの声に、三人はただただ、驚きを隠すしかなかった。
「だから嫌です。俺は戦いたくなんかない。こんな訳の分からない奴らとどうして殺し合わなければいけないんですか! 俺にはそんなこと無理ですよ!」
 部屋中に鍵士の声が響き渡る。
「お兄ちゃん……」
 凜は寂しそうに叫び声を上げる鍵士を見つめた。
「悪いな、凜……。俺にはできない……!」
「バタン!」
 学園長室のドアを勢いよく開け放すと、鍵士は外へと駆け出して行った。鍵士はそのまま、暗闇に包まれた廊下をひたすら走り続けた。鍵士のいなくなった学園長室は三人だけが取り残されている。凜は悲しそうに俯き、学園長は静かに椅子に腰をかけた。
「まあ……、予想はしていましたけど。鈴毬凜、お前は引き続き、久遠鍵士を見守っていてほしい。いつ何時、彼らが襲ってくるか分からないからな」
「はい……」
 雪乃先生は大きなファイルをゆっくりと閉じると、脇に抱え、そのまままるで魔法のように姿をそこから消してしまった。

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