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やっと高校生になって、ゆとり感が抜けたブログ。サブカル中心とした学校生活を送ります。過度な期待をしてやってください。

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 時刻は既に午前零時。どんちゃん騒ぎも、時間が経つにつれて静かになり、さすがの俺たちも酒が入っていたせいか、眠気には勝てず、明日も学校があるという事で、パーティーはお開きになった。
 敦志と瑞樹、それに蘭子さんはあんだけ騒いだにも関わらず、とても賑やかに話ながら帰って行った。絵莉菜も片付けを終えると、隣の自分の家に帰っていった。未由は案外お酒に弱いタイプなので、完全に眠り込んでしまい、その後の処理は姉貴に頼むことにした。
 そして俺は、凜が気持ち悪いといって今にも吐きそうだったため、凜をおんぶして外の空気を吸ってくることにした。
「凜、大丈夫かー?」
「う~ん、きもちわる~い」
「おいおい、本当に大丈夫か?」
「もう少しおんぶして~」
 凜はさっき以上に俺の背中にがっしりとしがみついた。
「一応聞くけど、お前、本当に気持ちが悪いんだよな? まさかおんぶ目的の芝居じゃないだろうな」
 ――ぎくっ!――
「ち、違うよ~。本当に気持ち悪いんだってば~」
「ま、未由もいないし、今日ぐらいはいいか。凜、本当に楽しそうだったしな」
 少しの間、俺と凜に静かな時間が流れた。夜の住宅街の明かりが、幻想的に目に映った。
「今日はありがとう、お兄ちゃん」
「なんだよいきなり」
 俺と凜の言葉だけが夜の街に響く。他の音は何一つ聞こえない。
「こんなに楽しかったのは久しぶりだったな。やっぱりここに戻って来てよかったよ。お兄ちゃんや絵莉菜ちゃん、それに未由ちゃんと会えて……」
「そりゃ良かった。あ、ところでさ、朝も聞いたけど、どうして突然こっちに戻ってきたんだ?」
「……………………」
 返事がない。振り返ってみると、いつの間にか凜はぐっすりと眠っていた。
「やっぱり凜は、まだまだ子供だな……」
 なぜだろうか。凜の寝顔を見ていると幸せな気分になってくる。空を見上げると今日は空気がほどよく乾燥しているせいか、晴れ晴れとした夜空には満天の星々が輝いていた。その光景が尚更、俺の気分を良くさせた。
 ――さすがにずっとおんぶしてるのも疲れるな。ちょうどベンチもあることだし、少し休憩するか――
 昼に見た桜とは、また雰囲気が違う夜桜が、夜風で美しく舞い上がっていた。通りにひとつポツンと佇んでいるベンチに腰を下ろすと、凜を起こさないようにゆっくりと背中から降ろし、自分の隣に座らせた。
「ふあぁ~。ヤベ、俺も眠くなってきたな~。よし、そろそろ家に戻るとするか」
 そう言ってベンチから立ち上がろうとした瞬間、急に強い風が吹いた。そして、それと同時に鍵士は何者かの気配を感じた。
 ――何だ、この気配……? よく分からないけど、この感じ……、嫌だ……!――
 何故だろうか。恐ろしいほどの嫌悪感が俺の心を満たしていく。風邪でもないのに、背筋が凍るように寒気が襲い、身体中が熱く苦しい。汗もどんどん噴き出してくる。
 不意に坂道の方に何者かの強烈な視線を感じた。その視線の主を知るため、重たい身体をゆっくりと動かしながら、坂の上へと目を向けた。
 するとどうだろうか。暗くてよくは見えないが、坂の上には確かに人らしき影が見える。
 ――誰なんだ、あれ?――
 その時、坂の上にいた影が一瞬にして、フッと消えた。
「えっ!?」
「シュッ!」
 あり得ない事だった。坂の上にいた人影が、一瞬にして目の前に現れ、さらにその人影から一本の腕が伸び出てきて、俺に向かってナイフらしき刃物が突き出された。
 普段はそこまで反射神経のよくない俺だったが、とっさの攻撃をかわし、一時的に危険からは回避することに成功した。
「な、何なんだよ!? どうなってんだ!?」
「チッ」
 その人影は舌打ちすると、少し後ろへとジャンプして下がった。その動きは、人とは思えないほどの俊敏生だった。
 するとようやく月明かりが差してきたことで、その人影の姿をはっきりと見ることが出来た。その姿は、俺より少し大きいぐらいの高校生のような風貌で、全身紺色の服を身に着けている。顔は少し細めで長く、首までの鋭い黒髪が夜風で揺れていた。ただ、何故か目隠しを付けているところが不自然だった。
「誰だよ、お前! いきなり斬りつけてきて!」
 すると男は静かにその唇を動かしながら言った。
「俺か……。そんな事、お前が聞いてどうする? これから死ぬお前にな!」
 またしても男の身体が素早く動き、手に持ったナイフがその動きと同じ軌道を描き、俺へと襲ってくる。
 ――こいつ、本気で俺を殺そうとしてる……! でも、なんで!?――
 そんなことを考える暇さえ与えず、男のナイフは間を空けずに、そして正確に俺の身体を狙って斬りつけられる。しかし、自分でも不思議なくらい、そのナイフの軌道をしっかりと目で追えている自分がそこにいた。さらには身のこなしまでいつもより軽く感じる。そのおかげで男の斬撃をギリギリながらもかわすことができている。
「ほう。やはり噂に聞くだけはある。が、所詮はかわすので精一杯か……。それでは、これならどうする、久遠鍵士!」
 さっきよりもさらに斬撃の速度が上がった。さらに攻撃のキレまで上がったように、空を切り裂く音までも聞こえてくる。
 ――速い……!――
 だがこんなところで殺されるわけにはいかない! 懸命に男の攻撃の回避に全神経を注ぐ。それでも間一髪でなんとかかわすことしか出来ない。
 ――マズイ、このままじゃ、俺が殺られるのも時間の問題か……――
「終わりだ」
 男が鍵士の目線から一瞬にして消えた。
「消えたっ!?」
「ヒュッ」
 男は高速移動により瞬時に鍵士の背後へと回った。
「後ろ!?」
 だが、気付いたときには男のナイフが鍵士の身体へと突き刺さる寸前だった。
「スパッ!」
 その斬撃の素早さに鍵士の身体は追いつくことが出来ず、鍵士の髪の端の数本がナイフによってスッパリと切られ、地面へと落ちた。
「うわっ!」
 あまりにも身体への負担が大きかったために、鍵士はバランスを崩してしまった。男はその隙を見落とすはずもなく、鍵士の腹に蹴りを入れた。
「フン」
「ぐっ!」
 男の蹴りの威力は想像以上に凄まじく、怒ったときの未由の蹴りとは比較にならないほどの重さ、そしてまさしく殺人的な鋭さがあった。
「ズドン」
 軽々しく蹴り飛ばされた鍵士は、そのまま電柱へと叩き付けられた。
「くはっ……!」
 叩き付けられた衝撃が身体の芯まで伝わってくる。あまりの激痛に、思わず吐血してしまった。もはや俺には呻き声をあげることしか出来なかった。

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「師匠、なんだか手のつけようのない展開になっちゃいましたね……」
「三角関係はよく聞くけど、これは四角関係ね~。なんだか私も興奮してきたし、仲間に入っちゃお~かな~!」
「何故こんなにも久遠がモテるんだ!? 顔なら俺の方が数段上なはずなのに……。これでは、わざわざこのパーティーに来た意味がないじゃないか! せめて遙さんさえ来てくれればいいのだが……」
「ピンポーン」
「ぐむっ? もがむぐがもむがもぐ」(あれっ? また誰か来たのか?)
 ――キュイーーーーーーン!――
「んっ!? この感覚、俺の美人センサーが反応している! 久遠、お前はそこで彼女たちの好意を無駄にせずにしていろ。玄関には俺が行く!」
 敦志はすぐさま玄関に走っていった。恐らくその理由は、帰ってきたのが姉貴だからだろう。
「ガチャ」
「ただいまー、ってアレ? 君は確か鍵士の友達の……?」
「はい、申し遅れました。某は久遠鍵士の親友、一之瀬敦志と言います。どうぞよろしく、遙さん。それでさっそくなのですが、携帯の電話番号とメールアドレスをお教えいただければ光栄なのですが」
 敦志は、帰ってきて早々の遙に対して、いつもの美人な女性に対しての決まり台詞を並べた。
「えっ? あの、何が何だかさっぱり分からないんだけど……?」
「うおりゃー!」
 瑞樹の跳び蹴りが敦志の頬に突き刺さる。一体、いつの間に瑞樹は玄関にいたのだろうか。敦志のいるところ、瑞樹が見張っているのだろうか。
「な、また貴様か、瑞樹……」
「まったく、ほんと懲りないわね、バカは。さ、バカはこっちに来なさい」
「む、無念……」
 瑞樹は敦志の首元を掴みながら、ズルズルとリビングまで引っ張っていった。
「ただいまー! あれ、みんなそろって何のお祝い?」
「あ、お姉ぇ! お帰りなさい」
「おじゃましてまーす!」
「むぐもごがあむあー」(お帰りー)
 まだ口の中には料理の数々が押し込まれているおかげで、まともに話すらできない状態だ。
「何だかいつにもましてすごい状況になっているわねー。絵莉菜ちゃんに、さっき会った一之瀬君だっけ? それからあれ? 凜ちゃんじゃない! 元気にしてた?」
「ウン、元気だよ!」
「こんばんは、遙さん」
 敦志は瑞樹に拘束されているために口を塞がれて、「んんっー!」としか話せなかったが、それでも姉貴に名前を覚えてもらったのがよほど嬉しかったのか、ピョンピョンと跳びはねている。
「それで一之瀬君の隣にいる子は、えーと、瑞樹瑠璃ちゃんね。確か、陸上部のハードル走のエースだったわね」
「ええ、そうですけど、何でアタシの事を知ってるんですか? 初対面なのに」
「姉貴はさ、学園の全生徒の名前と顔は、覚えてるんだよ。生徒会長だから」
「そういうこと! それにしても良かった~、鍵士にも友達がちゃんといたのね」
 その姉貴の言葉に、鍵士は今朝の始業式の出来事をハッと思い出した。
「あ! そうだ、姉貴。その言葉で思い出したけどよ、よくも始業式では大衆の前で恥をかかせてくれたなー!」
「だってー、鍵士ってば本当に人と喋ったりするの苦手じゃなーい。だから、姉として弟を心配するのは当然でしょ?」
「ふざけんな。そもそも姉貴は俺に構い過ぎなんだよ」
「そんなことないと思うんだけどなー、ってあれ! もしかしてあなたは……」
 姉貴は今まで気付かなかったのか、蘭子さんの方を見ると、驚いた顔をしながらこう言った。
「蘭子先輩!? なんで蘭子先輩がこんなところにいるんですか!?」
「ひどいわね~。そういう言い方は無いんじゃない、遙?」
「あれ、姉貴は蘭子さんを知ってるのか?」
「知ってるも何も、蘭子先輩は学園出身者の中でもかなり有名な人よ! 私が弓道部の主将をやってるのは知ってるでしょ。その弓道部の第五十七代主将で、伝説の中・高六年間全てで全国優勝し、日置流竹林派を継承する範士八段、それが一之瀬蘭子、その人なのよ」
「ええっーーー!」
 蘭子さんのあまりにも意外な実情を知った俺たちは驚きを隠せずにはいられなかった。弟の敦志さえ目を丸くして驚いてるほどだ。
「よしてよ~、遙~。そんな昔の話~。それに今は遙の方が強いわよ~」
「おい、姉ちゃん! そんな話、俺も聞いたこと無いぞ!」
「師匠、本当なんですか! さすが師匠、一生ついてきます!」
 敦志は自分の姉がこんなにもすごい人間だとは思わなかったというような顔をしており、瑞樹は目を輝かせて蘭子さんを尊敬の眼差しで見つめていた。
「もういいじゃない、その話は~。それより遙も早くこっちに来なさいよ~。やっとみんな勢揃いしたことなんだし、パアッと飲もーう!」
 すでに蘭子さんは酔っぱらっているようだった。まあ、缶チューハイの空の山を見れば一目瞭然だが。
「そうだよ姉貴。早く席に着けよ。なんだかんだいって今日はいろいろ大変だったんだろ?」
「そうなのよー。よく分かってるじゃない、さすが弟ね。生徒会長って意外に大変なのよねー」
 それぐらい言われなくても、姉貴の顔を見ればすぐに分かる。他の人は気付いていないようだが、若干やつれているようだ。何年間も姉貴と暮らしている俺にとっては、姉貴の寸分の差も見間違うはずなどない。
「あの、遙さん。あのフレアって子、どんな人なんですか?」
「ああ、フレアさんねー。彼女は……、いや、私もよくは知らないの。でも、話してみると結構いい子よ」
「知らないってことはないだろ。副生徒会長の事なら、生徒会長の姉貴なら分かるはずだろ?」
「うん、普通はそうなんだけど……。元々、今年度の副生徒会長は水島さん。あの風紀委員の委員長を務めている水島蒼花さんだったのよ。生徒会の決定ではね。だけど今日の朝、登校したらいきなり学園長先生に言われたのよ。『フレアさんを生徒会長にさせる』って。私も正直驚いたんだけど、学園長先生の命令でしょ。あの生徒会もそれには従うしかなくて、こうなったの。だからこんなに帰るのが遅かったのは、放課後、水島さんたち、反対勢力の収拾に手間取ったってわけ」
「なんか、私たちの知らないところで、いろんな問題が起こってたんだね」
「ああ」
 すると蘭子さんが飲みかけの缶チューハイをテーブルに置くと、話し始めた。
「それなら私たちの世代でも、そういう問題は結構あったわね。うちらの学校は巨大組織だからね。その分、生徒の数もハンパないじゃない? だから自然と派閥みたいなのも出来ちゃうのよね。学園内の有力者とか権力がある生徒とかを中心に。まあ、生徒会って組織が学園内の最高機関だけど、結局メンバーの大半はそういった生徒達で占められているのよね~。だからこうした抗争とか権力争いは日常茶飯事なのよ」
「大変なんすね、遙さんも」
「うん、まあね。でも、せっかくのパーティーなんだし、こういうブルーな話はやめにして、楽しみましょう!」
 姉貴はワインの入ったグラスを片手に持つと、乾杯の姿勢をとった。
「そうだな、姉貴の言うとおりだ。それじゃあ気分を変えて乾杯といくか!」
「ようやくパーティーの開始というわけね」
「今日は朝まで飲むー!」
「凜ちゃん、それはいくらなんでもマズイと思うけどな……。明日も一応、学校があるわけだし」
「ダイジョーブよ、絵莉菜ちゃん! 学校なんて二の次よ!」
「姉ちゃんは大学行ってないからそんなセリフが言えるんだよ!」
「皆さん、はしゃぎすぎです……」
「それじゃあ、かんぱーい!」
「カンパーイ!」
 みんなの高笑いが部屋中に響き渡り、飲めや歌えの大騒ぎは夜遅くまで続いた。こんなにも賑やかなパーティーは鍵士にとって久しぶりだった。
 ――なんか楽しいな、こういうのって。幸せっていうのかよく分からないけど、多分幸せってこういう事を言うんだろうな。いろいろあって大変な一日だったけど、それが俺にとっては幸せなんだろうな……――
                  *      *      *

 絵莉菜が来てから十分以上経ち、パーティーの準備は完璧に整った。テーブルには、せっかくのお祝いだからと、高級な肉。それに新鮮な野菜も切って並べてある。もちろん、それ以外にも所狭しと様々な料理の品々が陳列されている。ただし飲み物は缶チューハイやワインといったアルコール類がほとんどである。別に間違って買ってしまったというわけではなく、俺の家では、こういう祝い事の日には平気で酒を飲んでいるからなのだ。まあ、親が全然帰ってこない家庭環境では、これぐらいは許容範囲なわけであるし、アルコールが入ってた方が盛り上がると言えば盛り上がるのである。
「よし、なんとか準備は終わったな」
「後は他のみんなが来るのを待つだけだね」
「ピンポーン」
「噂をすれば何とやら、ってね。俺が出るよ」
 と、玄関のドア越しにどうやら敦志と瑞樹、それに聞いたことのない三つの声が、騒々しく聞こえてくる。
「やっほー☆ 来たよー!」
「まったく、何故俺が瑞樹なんかと一緒に来なければ……ブツブツ。まあポジティブに考えれば、久遠姉妹に会えるだけ良しとするか」
「タダで焼肉が食べれるなんて、喜ばしいことじゃな~い! 敦志にも優しいお友達がいたものね~」
「何で姉ちゃんまで来るんだよ。そもそも、今日は勤め先のキャバクラ、営業日じゃなかったのかよ」
「今日はお店は休みなの。ママの体調が悪いんだって。それに、鍵士君がどういう子なのかも見てみたかったのよね~。ほら、お互い、まだ面識ないじゃない?」
「しかし師匠。鍵士は師匠が期待するほどの男じゃないと思いますが? 言うなれば平均的というか、普通の男子ですよ?」
「ふふ、瑠璃。そうやって客観的に男性を捉えすぎるのは良くないと思うわ。それにね、今の時代、逆に普通な男性ってのはそうそういないものなのよ。つまり稀少なのよ、彼みたいな男性は」
「師匠、すいません! アタシとした事が、未熟な上にそのような勝手な発言をしてしまうとは……」
「瑠璃、頭を上げて頂戴。あなたの言った事は決して全てが間違いという訳ではないの。要は人それぞれの感性によるものなのよ。これからその感性を磨いていくのよ!」
「はい、師匠!」
「たく、どうして瑞樹はいつもそんな風にしていないんだ?」
「なんか言った、バカ?」
 もう夜だというのに、こんな会話を大きな声でされては、いくら何でも近所迷惑だ。
「ガチャ」
「あのさ、少しは静かにしていられないのか?」
「おお、久遠! ちゃんと来てやったぞ!」
 そりゃどうも。つーか、その手に持っている薔薇の花束は何なんだ? もしかして姉貴とか未由に渡すための花なのか?
「おじゃましまーす! あれ、もう絵莉菜、来てたんだ?」
「これが鍵士く~ん? 初めまして、蘭子ですぅ! ヨロシクねん」
「あ、ども、初めまして。久遠鍵士です」
 ――これが蘭子さん……。想像通り、確かに瑞樹が尊敬するだけはあるな――
 蘭子さんの服装は、やはりキャバ嬢と言うだけあって、胸元の大きく開いた、極めて露出度の高い黒のキャミソールを着こなしていた。しかしそれがあまりにも似合っている。これなら男性が蘭子さんの虜になってしまうのも無理もない。いわゆる大人の魅力ってやつだ。
「言っとくが決して惚れるなよ。でないと他の男共と同じように、いろんなものを全て搾り取られるからな」
「何だよ、いろんなものって?」
「そういう言い方はないんじゃないかな~、敦志」
 やっぱり瑞樹が蘭子さんのことを師匠と言うのも無理もない。二人とも同じタイプの人種のようだ。
「ゴメンね~、鍵士く~ん。うちの敦志がしょっちゅう迷惑をかけてるみたいで~。フフフ……」
「いえ、確かに敦志はいろいろな面倒な事をよく起こしていますけど、それが彼らしさというか、別に気にしてませんから」
「まあ! 鍵士くんって噂以上に優しい男の子なのね~。お姉さん、余計に鍵士くんのことが気にいっちゃったな~」
 この場合、どういう返事をすりゃいいんだ……?とにかくできるだけ早く、家の中に入ってもらわないと。ここでいつまでも長話が出来るほど、俺はお喋りな人間じゃない。
「あの……、蘭子さん。それに敦志と瑞樹。とにかく家の中に入ってもらえないか。立ち話もなんだし、絵莉菜と未由が作った料理も冷めちまうしな」
「あ~ん、ゴメンね~鍵士くん。じゃあさっそくおじゃましま~す!」
「鍵士の言うことはもっともだな。如月さんと妹さんの手料理を冷ましてしまうような大罪を犯すのは、俺の理念に反するからな」
「バカの理念はともかく、絵莉菜の料理はおいしいからね。冷ましちゃうわけにはいかないでしょ」
「まあ、そういうことだ。とにかく入ってくれ」
「おじゃましま~す!」
 三人のあまりにも大きすぎる声が、近所まで響いていた。
                 *     *     *
 時計の針はちょうど六時を指している。ようやくパーティーは始まった。
「絵莉菜ちゃ~ん! 缶チューハイ、もう一本頂けるう~?」
「あ、はい、蘭子さん! でもちょっと飲み過ぎなんじゃありませんか?」
「いいのよぅ、お酒を飲んだ方が盛り上がるじゃな~い! 鍵士くんもどんどん飲みましょうよ~」
「い、いえ。俺はもう随分飲んだので」
「いいじゃなーい! せっかくのパーティーなんだし、もっと飲まなきゃー」
「そうだよ、お兄ちゃん! はい、ア~ン」
 凜の手が俺の口元に動く。おい、この動作はいくら何でも危険すぎる。これは未由に対しての挑戦に他ならない。それどころか、絵莉菜の目の前でこんな事はしたくない……。
「や、やめろよ凜! 恥ずかしいだろーが」
 キラーン。瑞樹がこの光景に目を光らせた。
「絵莉菜、これはチャンスよ! 絵莉菜も凜ちゃんと同じように、鍵士に『あ~ん』してあげるのよ!」
「え、いいよ私は……」
「絵莉菜ちゃ~ん、女は度胸よ! 頑張って鍵士くんに自分の事をアピールするのよ、分かった?」
 ――うん、瑠璃ちゃんと蘭子さんの言うとおりだ。鍵士君と少しでも仲良くならなくちゃ! いつまでもオドオドしてちゃダメだよね!――
「そ、そうだね!」
 そう言うと絵莉菜は、自分の目の前にあった唐揚げを一個、箸でつかみ取り、それを鍵士の口元へと持って行った。
「く、久遠君。あ~ん……」
 ――やっぱりドキドキするよぅ~……――
 唐揚げを掴んだ箸はプルプルと震え、恥ずかしさを抑えきれないせいか、顔には恥じらいで赤く染まっていた。
「ガンバレ、絵莉菜ちゃん!」
「後もう少し、絵莉菜!」
 当の鍵士といえば、凜の『あ~ん』から必死で逃げているため、絵莉菜の一世一代の行動を知る由も無かった。そしてさらに不幸な事に、未由が台所から戻ってきてしまい、凜の行動を目撃してしまった。
「何してるの、お兄ぃ! それに凜ちゃんも!」
 未由の声に気付いた凜が、振り向きざまに一言。
「何って、お兄ちゃんに『あ~ん』してあげたんだよ☆」
 ――凜!? いくら何でも空気を読んでくれって!――
「おい!? これはあくまでも凜が勝手にやってきただけで、不可抗力なんだって!」
「そもそも、食べるなら健康面も考えて、野菜サラダも食べないといけないね!」
 そう言って未由は野菜サラダを小皿にのりきらないほど、こんもりと大盛りでよそった。
「というわけで、お兄ぃ! これも食べてね」
 無理やり、大盛りの野菜が口の中に押し込まれる。
「むがっ!? もごもご、むふっ! やめてくれ未由、マジで苦しいから!」
「あ、未由ちゃん、ズルいよー!」
 さらに凜の持つフライドチキンが俺の口に押し込まれる。それと同時に長い時間をかけてようやく鍵士の口元へと辿り着いた絵莉菜の唐揚げを掴んだ箸がさらにその奥へと向かっていた。
「鍵士君、食べて!」
 ――絵莉菜!? 絵莉菜が俺に『あ~ん』を!? 夢のようだが今は夢にしておいてくれ! じゃないと俺が死んじまうって!」
 鍵士への『あ~ん』を巡っての女三人の争いは、逆に鍵士を追い込むような形で始まってしまった。

◎ なんかもう高校生…
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HN:
音瑚まろん
性別:
男性
職業:
高校生を主にやってる
趣味:
PCゲーム、QMA、他サブカル全体。あと、エ〇ゲ。
自己紹介:
嫁:ふたみたん(byいつか、届く、あの空に)
  関羽さま(by恋姫†無双)
本日のオカズ:ヤンデレやメイド、最近メカ娘にも手を出し始めたようだ
好きなPCゲームw:いや、これといったものはない。浅く、広く、鬼畜を除く
崇拝する絵師:萌木原ふみたけ


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