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やっと高校生になって、ゆとり感が抜けたブログ。サブカル中心とした学校生活を送ります。過度な期待をしてやってください。

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 時刻は午後五時半を過ぎ、パーティーの準備は着々と進んでいた。敦志も瑞樹も、連絡をしたら快くパーティーに出席するのを了解した。
 片付けもすっかり終わり、リビングの飾り付けも綺麗に仕上がっている。新学期初日と凜の転入祝いにしては、ちょっとやり過ぎな気がするが、まあそれにこしたことは無いだろう。
「お兄ぃ、片付けが終わったなら凜ちゃんの飾り付けを手伝ってあげて」
「ういーす、って凜! 何一人で遊んでんだよ! リビングの飾り付けはどうしたんだよ」
 凜は飾り付けの仕事もせず、一人でテレビゲームをやっていた。中国にはテレビゲームが無かったのか、まるで何十年ぶりにゲームをやる人のように、純粋に感動している。
「えへへ~、ゴメンゴメン! テレビゲームなんてやるの、中学の時以来だったからね。そうだ! お兄ちゃんもやる? このゲーム、二人でやった方が楽しそうだし!」
 どうやら凜がやっていたのは『鉄劍』と呼ばれる対戦型格闘ゲームで、言わば格ゲーと呼ばれるものである。確か一年前に発売されたソフトで、一時期、かなりやりこんだが、今では飽きてしまって手に取ってすらいない。
「『鉄劍』か~。まあ、いいけどよ。言っとくけど、俺かなり強いからな」
「大丈夫! さっきやってみて、大体操作方法は分かったから。それにこういうのやってみたかったんだよね~!」
 ――フ、さっき初めてやった凜に、推定総プレイ時間250時間の俺に勝てるわけがないだろう。そもそも操作方法を知っているだけでは俺には勝てねえよ。第一、コンボすら分かってねえだろうし――
「それじゃあ早速やるとするか。それじゃあ俺は『風馬潤一』と。やはりカウンターからのコンボは効くからな」
「じゃあ凜は……、コレ!」
 いったい何の根拠でキャラクターを選んだのかは知らないが、凜が選んだのは『風王龍』という、多種多様な拳法を織り交ぜる戦闘スタイルを持つキャラクター。しかしこのキャラクターは、はっきり言って上級者向けなはずだ。よって残念ながら初心者の凜に扱えるはずがない。
「ファイト!」
 ゲームが始まった。凜はまるで子供(いや、高校生といえども凜の場合は子供というべきか)のように、コントローラーを持ちながらワクワクしている。テレビゲームでここまで興奮しているやつなんて見たことがない。
 ――ま、少しは手加減しておくか。ハンデはいらないって凜が自分で言ってたけど、すぐ倒しちゃうとあいつが可哀相だしな――
「よっしゃ、凜来い!」
「ウン!」
 そうして始まった俺と凜の勝負。勝敗は完全に見えていた。勝利は完全に俺のもの……。のはずだった!
「エイヤー! よし、そこだー!」
「な、何でお前、こんなに格ゲーが強いんだ!?」
 凜の使う『風王龍』は確かに上級者向けのキャラクターのはずだ! なのになんで、初心者の凜がここまで俺と対等に、いやそれ以上に俺よりも強い! 凜のコントロールさばきは、初心者並だ。それなのに、俺の攻撃はことごとくガードされ、隙あればカウンター技まで決めてくる。それ以上に拳法という戦闘スタイルさながらの高速での連続技は全くの隙すら見せず、絶え間なく俺に打ち込まれていく。それがどんどんダメージを溜めていき、いつのまにか俺のライフゲージは底をついていた。
「勝者、風王龍!」
 ――そんな……、俺が負けるなんて……!?――
「ヤッター! 勝ったー!」
 完全なる敗北だった。凜には1ダメージすら与えられず、タイムも半分以上残っている。こんなにも格ゲーで屈辱感を味わったのは初めてだ。しかも負けた相手が凜だなんて……。
「信じられん……。おい、凜! お前、このゲーム、本当に初めてなんだろうな?」
「そうだよ? でもさ、キャラクターの動きと自分の動きを同調させてプレイすれば、これぐらい簡単だよ!」
 キャラクターの動きと、自分の動きを同調? 何なんだそれ! 格ゲーにそんなものを使うなんて聞いたことがないぞ!
「なあ、もう一回。もう一回だけ、俺と対戦してくれないか!」
「それには及びません」
 ――あれ? もしかしてこの声は……――
 ゲームをしてて全く気付かなかったが、俺の背後にはずっと未由がいたらしい。その拳には完全に殺気がこもっている。やっぱり凜といるとこんな事になってしまうのか!?
「現実でお兄ぃと対戦するってのも、楽しそうだねー。ねえ、お兄ぃ」
「ピンポーン」
 ――ナイスタイミング!――
「あ、俺が出るよ!」
「命拾いしたってところだね、お兄ぃ」
 そう言うと未由は再びキッチンに戻っていった。
 すぐさま玄関へと向かい、ドアを開けると、今日のパーティの買い出しをしていた絵莉菜が立っていた。
「よお。かなり大荷物だな」
「うん、相当、買ったからね。ちょっと時間がかかっちゃってね。おじゃまします」
「絵莉菜、荷物持とうか? かなり重そうだし」
「ううん。これぐらい大丈夫だよ。それよりさ、時間も残り少ないし、早く準備を終わらせちゃおうよ!」
「そうだな! よし、絵莉菜に負けず、俺もさっさとやっちまうか!」
 絵莉菜に励まされて、さっきよりもやる気の出た俺は、早速リビングに戻り、部屋の飾り付けに取りかかった。
「あれ、お兄ちゃん、さっきよりも張り切ってるね。どうかしたの?」
「そうか? 気のせいだよ、多分。それより早く終わらせちまおうぜ」
 そしてキッチンでも未由はてんてこ舞いで料理の下準備に追われていた。
「大丈夫、未由ちゃん? 私も手伝うから、頑張って料理を仕上げようよ」
「あ、絵莉菜さん! 来てくれて本当に助かります。お兄ぃが全然働いてくれなくて、結構手間取っちゃって」
「それが鍵士君らしいところだから。それじゃあさっそく焼肉の準備をしましょう!」
「ええ、私もタレとかの下準備が終わったところなので。ちょうどいいし、始めましょう!」
 二人は全く違うタイプなのに、やはり女性同士、何か繋がるものがあるのだろうか、意外と合っている。それにしても二人が一緒のキッチンで立っている姿を見ていると、不思議な感じがするのは何故だろうか?

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鍵士たちがいなくなった通学路で、その二つの影は話していた。二つの影の内、一方は男、もう一方は女のようだった。
「――なるほど、あれが久遠鍵士……」
 男の方が静かに呟いた。男の背丈はちょうど鍵士より若干大きいぐらいで、全身紺色の服を身に纏っていた。
「聞いていた話では、奴が『選ばれし者』らしいが、見るからに普通の高校生ではないか」
 男の髪の毛が風で揺れた。男の目には何故か黒い目隠しが付けられている。
「そう見えるだけよ。実際に殺り合わなければ『選ばれし者』かどうかは分からないわ。そうでしょ、リリューク? いいえ、人間界では桐夜という名前でしたっけ?」
 女の方は黒いマントが全身を覆っているため、顔までは分からない。ただ、背中には、銀色に輝く巨大なハンマーらしき武器が装備されている。
「どちらでもいい! とにかく今夜、俺は事を実行させてもらうぞ、ブリュンヒルデ」
「やめてよ、そんな古い名前で呼ぶの。今は人間風に千彩と名乗ってるの。それで、本当にあなた一人でいいわけ?」
「もちろんだ。奴を見る限り俺一人で十分すぎるぐらいだ」
「まあ、いいけど。せいぜい『概念の主』の一人として頑張ってね。『最弱の主』なんて汚名、さっさと消したいんでしょ」
 すると突然、男が手からナイフを出すと、女の首筋に突き付けた。
「あら、随分と血気盛んね。そんなに気に障ることだったかしら、『最弱の主』?」
「黙れ! 貴様には分からんだろうな、俺がどれだけその言葉に苦しめられてきたか!」
 男は持っていたナイフを女の首に振りかざし、その首を一瞬にして切り落とした。だが、普通の人間なら死んでいるはずなのに、女は生首の状態のまま、なおも話し続ける。
「そんなことしても私たちには無意味なことぐらい、あなたもよく知っているでしょう?」
 女の首のナイフで斬られた痕からは、大量の生々しい血が流れ出し、道路のコンクリートを真紅に染めている。するとどうだろう、頭が無くなっている女の胴体から、新しい首が再生し始めている。そして気付いた頃には、完全に女の頭はさっきと同じようにくっついている。
「いくら私でも、再生時間に10秒くらい要するのよね」
「俺は確かに『最弱の主』として呼ばれてきた。俺の攻撃は他の『概念の主』には致命的な傷すら負わせることもできない。ましてや、『概念破壊』の能力を持たざる人間にさえ、俺は殺される可能性がある。まさしく俺は不完全な存在だ」
 男は手に持っていたナイフを、女の目の前へかざした。
「何? そのナイフがどうかした?」
「俺はな、この百年間、せめて人には脅威となるべき存在になろうと、『殺人』の能力を磨いた。そして見出したのさ、独自の殺人術というものをな」
「なるほどね。人間ならば、『殺人』という方法を行使すれば簡単に破壊できる。だから独自の殺人術を編み出した。これなら人間という条件をもつ存在なら何の問題もなく破壊できる。そう言う事ね」
「ああ、つまり今の久遠鍵士ならば、本来の俺の力を出さずとも簡単に殺せるというわけだ」
 そう言うと男の手からナイフが消えた。どうやらこのナイフに実体は無いらしい。
「まあ『殺戮機械』ってところね。せめて『影縛の躁牙』の名を恥じぬようにね、ってもう行ったの」
 すでに男の姿は無く、道路には女一人だけが佇んでいた。
「私も、彼が失敗したときに備えて準備を進めるかな」
 そう言って、その女は姿を消した。今や道路には誰一人して、人の影は無い。
        *     *     *
「ただいまー! 未由、いるか~?」
 たしかに玄関には未由の靴はあったが、リビングの電気は点いておらず、静まり返っており、未由の姿も無かった。
「未由ちゃんいないの?」
 相変わらず俺の背中に乗っている凜が、ひょいと頭を出し、首をかしげながら言った。
「おかしいな、玄関には未由の靴もあったし、郵便物も取ってあったし。もしかしたら上の部屋にいるのか?」
 凜を背中に乗せたまま、二階への階段を上り、未由の部屋へと向かった。
「コンコン」
 ノックをしたが中から返事はこない。
「おっかしいな? 未由、入るぞ~」
 ドアを開けた。未由はそこにいるはず無いと思っていた。だが、目の前にはたしかに未由がいた。
「え、お兄ぃ!? それに凜ちゃん!?」
「み、未由、その格好……」
 あまりにもタイミングが悪かった。未由の姿は、上が制服、下が下着。つまりは着替え途中というわけだ。
「………………」
 数秒間、部屋の中に沈黙が流れた。そしてその沈黙は未由ではなく、先に凜が破った。
「なんていうかさ……、こういうシーン、よくラブコメである展開だよね。状況的にはどっちかって言うと修羅場だけど……」
 ――なんだ、その表現は? でも凜の言うとおり、この状況は結構ヤバイかも……――
 下を向いて震えていた未由が、凜の言葉によって吹っ切れたらしく、右腕の拳を振り上げながら、目を光らせ言った。
「お兄ぃ~、覚悟は出来てるよね~? 大丈夫、おとなしくしてれば一発ぐらいで勘弁してあげるから」
 顔は笑っているが、完全に兄撲殺オーラが漂っている。これはマズイと、俺の本能が訴えかけてくる。凜はそんな光景をただニヤニヤと笑いながら見ているだけだった。凜にとって鍵士と未由の兄妹喧嘩は嬉しい限りだからだ。
「いや、これはだな、未由……。決して覗くとかそういうつもりじゃなくて、だから、そう! お前がリビングにいなくて、捜していたらたまたま……」
「問答無用!」
 未由の拳が顔面に直撃した。
「グハッ!」
 そのまま床に倒れ込んでしまった。
「おお~、ぱちぱちぱち。未由ちゃん強~い!」
 倒れている俺を尻目に、凜は未由に賞賛の拍手を送った。
「さて、凜ちゃん。いったい何故ここにいるんですか?」
「それについては俺から説明する……」
 鍵士は痛みに悶えながら、ゆっくりと立ち上がった。
「実はな、凜、今夜泊まる家が無くてな。それで、凜一人でホテルに泊まらせるわけにもいかないだろ? それで住む家が決まるまで俺たちの家に泊めてやろうと思ったんだ。いいだろ、別に?」
 凜はコクコクとうなずきながら俺の話を聞いており、未由も少し悩んだ様子で聞いていた。
「なるほど。一応、お兄ぃの意見は分かった。凜ちゃんをたった一人でホテルに泊まらせるのはちょっと無理な話だもんね。だけど……」
「お願いします、未由ちゃん!」
 凜はペコリと頭を下げながら必死に頼み込んでいる。ここは俺もそうするべきか。
「俺からも頼む、未由!」
「うっ……」
 未由が一瞬ひるんだ。何故ひるんだのかは分からないが。
「二人とも顔上げてよ。私はそこまで非道い人間じゃないんだから。わかった、当分の間、凜ちゃんをこの家においといてもいいよ。その代わり、何かあったらその時は、お兄ぃ。覚悟しておいてね」
「はい、わかりました!」
 未由の最後の言葉だけが俺を不安にさせた。未由はまったく問題ないと考えているようだが、いつものことだ。確実に何か起きるに違いない。
 中学時代、初めて凜がこの家に泊まった時のことだが、俺が風呂に入っている時、勝手に凜が風呂に入ってきてしまい、さらにそこを未由に見られてしまったのだ。もちろんその後、思い出すのも恐ろしいほどに未由に殺されかけた。ちなみにその時は、四十八時間耐久拷問レース! というのは冗談だがそれ位の事をされた。
「実はさ、もう一つ報告しないといけない事があるんだ」
「そう! 大事なホ・ウ・コ・ク!」
「まだ何かあるの?」
「今日さ、新学期初日と凜の転入祝いってことで、この家でパーティーやろうって事になったんだ。それでみんなを呼ぼうと思うんだが、どうかな? 未由は賛成か?」
 未由は驚いたようだったが、すぐさま返事をした。
「賛成も何も、それなら早く準備をしないとダメでしょ! リビングだって散らかってるし、料理もたくさん用意しないと!」
「料理なら、今、絵莉菜が食材を買いに行っているから、大丈夫だ。きっと」
「絵莉菜さんだけに大変な思いをさせるわけにはいかないでしょ! それじゃあ私は料理の下準備するから、お兄ぃはリビングの片付け、凜ちゃんは部屋の飾り付けを!」
「了解☆」
「よっしゃ、いっちょやるか! そうだ、敦志と瑞樹にも連絡しておかなくちゃな」
 鍵士、未由、凜の三人はそれぞれの役目を果たしに、一斉に散った。パーティーまで、残り一時間。

                                        *     *     *
 雪乃先生がホームルームを早く終わらせたいという意向から、帰りのホームルームは迅速に終わり、俺たちA組の生徒は帰宅の路についていた。
「高校生二年生の初日、やっと終わったねー」
「ほんとやっと終わったって気分だよ……。初日からこれじゃあ、俺マジで死ぬかも」
「でも私は結構楽しかったよ?」
「俺は疲れただけだ。ところで、瑞樹と敦志はどこにいったんだ? ホームルームが終わってすぐに姿が見えなかったけど」
「瑠璃ちゃんは陸上部の集まりで、放課後学校に残るんだって 一之瀬君はどこに行ったか知らないど」
「ま、敦志のことだろうし、どっかの女子の尻でも追いかけてんだろーな。あのフレアって留学生とか雨宮沙羅だっけ、そいつ」
「雨宮さん、学級委員長になっちゃったよね。雨宮さんって、みんなから恐れられてるらしいよ。なんでも、雨宮さん、図書委員もしていて普段はああ静かなんだけど、真夜中になると、暗殺家業をしているとかっていう噂があるんだって!」
「今の世の中に暗殺家業なんかあんのかよ。まあ雨宮みたいなやつなら案外似合いそうだな」
「そう、それでね。今まで雨宮さんに告白した男子って結構いるんだって。あの無表情さがいいんだって」
「この広い世界ならそれぐらいのマニアがいても可笑しくないしな」
「でも告白した男子全員が全滅だって。雨宮さんに即座に『私、そういうの興味ないから』って言われたんだって。それでもまだ告白する男子が絶えないんだって」
「なんだかすごいな、雨宮って……」
「そうそう、すごいっていえば、他のクラスにすごくちっちゃな小学生みたいな女の子の高校生が転入してきたんだって。どんな子だろうね?」
 その絵莉菜の言葉に俺はハッとした。その女の子、間違いなく……。
「なあ絵莉菜、その高校生ってのは金髪碧眼のツインテールの女の子か?」
「えっ!? そうだけど、鍵士君知ってるの?」
「ああ、というよりその女の子と今日の朝、一緒に登校した……」
「一緒に登校したって、まさかその女の子って……」
「お兄ちゃ~ん!」
 遥か遠く、俺たち二人の背後から、朝にも聞いたと思われるセリフが聞こえた。
「やっぱり凜のことだったか……」
「凜ちゃんだったんだね……」
 凜は俺を発見したことにとてつもなく喜んでいるようで、笑顔で手を振りながら俺たちの方へ走ってくる。そのスピード、恐らく俺の百メートルのタイムより速い。
「お兄ちゃん、見~つけた! それに絵莉菜ちゃんも~!」
 凜は早速俺の背中へと跳び乗った。
「それは俺のセリフだ。凜、一体お前はどこに行ったんだ?」
「ひどいよ~、お兄ちゃん。急に凜の前からいなくなっちゃうんだもん。おかげで一人で自分のクラスを探さなくちゃいけなくなったんだから~! ぷぅ~」
「だからさ、お前が勝手に消えたんだろ! それで捜そうと思ったんだが、たまたま敦志に会ってな。敦志の勘違いのおかげで結局お前を見つけられなかったんだよ」
「ふ~ん、まあいいや。何にしてもお兄ちゃんに会えたんだから! 絵莉菜ちゃんも久しぶりに会えて嬉しいな!」
「うん、凜ちゃん久しぶりだね。いつ中国から帰ってきたの?」
 絵莉菜もかつて中学時代によく遊んでいた凜と久しぶりに会えたからか、とても嬉しそうな表情だ。
「今年になって日本に帰ってきたんだ☆ お兄ちゃんに会いたくなって!」
「おい、凜! その『お兄ちゃん』ってのはやめろって朝にも言っただろ!」
 すかさず拳を天高く上げた。
「ふえぇぇ~ん、ゴメンなさ~い!」
「鍵士君、凜ちゃんがかわいそうだよ」
「でもよ、そうじゃないと他の生徒から変な目で見られるじゃんか。中学の時と違って、俺たちもう高校生なわけだし、いくらなんでもキツイって」
「たしかにそうかもしれないけど、凜ちゃんがそういう風に鍵士君を呼んでないと違和感があるんじゃないかな?」
 そりゃ絵莉菜の言ってることはよく分かる。俺も朝、そうは思った。けど、これ以上周りの注目を浴びるのは嫌だしな……。
「まあ、そう言われればそうなんだが……。わかった。じゃあ凜、極力それで我慢するけど、なるべく生徒達の前では控えろよ。それから未由の前で言うのには気をつけろよ。あいつ、本当の妹なんだから」
「ウン、わかった! 言わないようガンバル!」
 ――あれ、朝もこんな約束、凜と交わしたような……。ま、いっか――
「よし、それならいい。ところで、凜はどこのクラスになったんだ?」
「そうだよ、凜ちゃんはどこのクラスなの?」
「クラス? C組だよ。自分のクラスがどこか、探すの本当に大変だったよ~。それにさ、行く先々でどうしてか知らないけど、いろんな生徒に囲まれちゃったんだよね」
 凜みたいな小学生体型の女の子が高等部の校舎にいればそりゃ生徒の目を引くわな。こんな高校生、珍しいだろうし。
「C組ってあのフレアさんがいるクラス?」
「ウン、そうだよ。あのフレアさんって人、なんか変わった感じの人だよね」
 凜の方がよほど変わってると思うが。
「それでさ、明日から凜もお兄ちゃんたちと一緒に登校していい?」
「ああ、好きにしろ。それよか、俺の家なら勝手に出入りしても構わねえよ。母さんはしょっちゅうわけわかんない研究施設で働いてて、いつも家にいないから、家は俺と姉貴と未由の三人だけだし、時々絵莉菜も来てるからな。ま、気軽に来いよ」
 母さんは、いつも俺たち三人に家のことを任せて、国際政府の研究機関で働いてる。どんないかがわしい研究をしてるかは知らないが、その仕事はかなり忙しいらしくて、家に帰ってくるのは一ヶ月に一回ぐらい。すぐにまた家を出て行ってしまう。もちろん母親がそれでいいなら俺もいいし、子供三人を一人で養っているのには正直感謝せざるをえない。
「ウン、じゃあそうする!」
「なんだか今まで以上に賑やかになりそうだね、鍵士君」
「まあ賑やかなのはいつもの事だしな。それで凜はどこに住んでいるんだ?」
「まだ決まってな~い」
「何!? お前もしかして、自分の家ないのか?」
「ウン。だって勝手に中国から帰ってきたから、まだ住む家も決まってないし、前に住んでた家はもう売り払っちゃったし。テヘ☆」
「テヘ、じゃねえよ! それじゃあ今夜どうすんだよ!」
「ん~、とりあえず繁華街にある不動産屋さんに行って住むところを探そうと思ってるんだよね。一応お金はちゃんとあるから」
 そう言って凜はお財布を取り出すと、中には何十枚もの札束がギッシリと詰まっていた。
「でも凜ちゃん、この時間じゃ、今日中には無理だと思うよ」
 いくら何でも無理な話だ。そもそも、凜が不動産屋に行ったところで真面目に取り合ってもらえるだろうか? 否、確実に子供扱いされるだけだろう。
「ダイジョーブだって! その時はその時。どこかのホテルに泊まるからさ。ほら、駅前の新しくできた綺麗なホテル。一度、泊まってみたかったんだよね!」
 凜の言ってる、その駅前に新しくできた綺麗なホテルというのは、『ロイヤルバレー紅華ヶ丘』という全国屈指の超高級ホテルで、経営してるのはどこかの有名な大企業らしい。そのため泊まるのはよほどのお金持ちか、著名人だという話だ。そんなホテルを凜は泊まると言っているのだ。
「いや、無理に決まってる! 小学生みたいなお前一人を泊めてくれるホテルなんか世界中を探しても無い! ましてやあそこのホテルは絶対に入れない!」
「わかったよ~。それじゃあ今日はお兄ちゃんの家に泊まる!」
 それはそれでいろいろと困るんだが……。だが、凜一人をホテルに泊まらせるわけにもいかないし、ちゃんと理由を説明すれば未由も了解してくれるだろう。
「ああ、それならまだマシだ。凜もその方が落ち着くだろ」
 その時、絵莉菜が何かを思いついたらしく、ゆっくりと手を挙げた。
「それじゃあ、今夜は久遠君の家でパーティー開かない? 新学期初日と凜ちゃんの転入記念ってことでさ!」
「そりゃあいい考えだ! ナイス、絵莉菜! それなら未由も賛成してくれるだろうし、姉貴も喜んでOKするな。 そうと決まったら早速帰って準備をしなくちゃな!」
「じゃあ、私は商店街で買い出しをしてくる! 二人は何は食べたい?」
「凜、焼肉が食べたーい!」
「そうだな、せっかくのパーティーだし豪勢に焼肉にすっか! 姉貴も焼肉大好物だし」
「分かった。じゃあ行ってくるね!」
「絵莉菜、助かるよ。俺と凜は先に家帰ってパーティーの下準備をしておくよ。ああ、敦志と瑞樹の二人も呼んでおくから!」
「うん、じゃあまた後でねー!」
 絵莉菜は商店街へと走っていった。残された俺と凜はそれを見送ると、自宅へと向かって駆けだした。
「よし、家まで競走ってのはどうだ?」
「ウン、負けないよお兄ちゃん!」
「ヨーイ、ドン!」
 二人は大きな声で叫ぶと、鍵士の家へと全速力で走った。
 この時はまだこんな楽しい時間が限りなく続くと思っていた。だが、その思いとは裏腹に、既に鍵士の背後には何者かの影が迫っていた。その存在など知る由もなく……。

◎ なんかもう高校生…
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HN:
音瑚まろん
性別:
男性
職業:
高校生を主にやってる
趣味:
PCゲーム、QMA、他サブカル全体。あと、エ〇ゲ。
自己紹介:
嫁:ふたみたん(byいつか、届く、あの空に)
  関羽さま(by恋姫†無双)
本日のオカズ:ヤンデレやメイド、最近メカ娘にも手を出し始めたようだ
好きなPCゲームw:いや、これといったものはない。浅く、広く、鬼畜を除く
崇拝する絵師:萌木原ふみたけ


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